保育園は可哀想
こんにちは、ミユキ(名字)です。
先日アズキ(娘)を連れて電車に乗っていたら、途中の駅でおばあちゃんが乗って来ました。
おばあちゃんがアズキのベビーカーのフロントバーをガッと掴んだのでドキッっとしたら、手すり感覚で持っただけのようで。
そのまま私の横に座り、ベビーカーの中を覗き込んで「あらー、可愛いわねえ」と言いました。
とかく母親世代というのは赤ちゃんを見かけると話しかけてくるものです。
ちょっとメンタルが弱い女性や、子育てに自信を持てきれずにいる女性なら、ショックを受けたりカチンときたりするような発言も、母親世代はホイホイと投げつけてきます。
「今何ヶ月くらいなの?」
「5ヶ月です」
「あらそう、まぁよく太ってるわねぇ〜」
「そうなんですよ、おっぱい大好きで。この時期が一番パンパンになりますねー」
「そうなのー、ねぇ本当によく太ってるわ」
でもまぁ私は別になんと思うことなく会話は続きます。
「本当ですよね。見てくださいこの手。ほっぺたもパンパンですごいんですよ」
大抵このあたりで「うちも孫がいてね…」とか「うちの子もこれくらいの時は…」という展開になるのですが、この時はありませんでした。
会話が途切れかけたので、私から話を膨らませました。
「上の子もこれくらいの時は同じようによく太ってまして…」
「あら、上の子いるの。あれじゃあ今は…?」
「保育園に行ってるんです」
「あら〜そう!保育園!」
「はい、働いていまして。4月からはこの子も保育園なんです」
「まぁこんなに小さいのに〜。保育園に行っちゃうんだ。お母さんと離れてね〜かわいそうね」
保育園は可哀想。
今ではだいぶ減ってきましたが、やっぱりまだまだ根強い意見です。
「本当にね、かわいそうですよね…。できれば一緒にいてあげたいんですけどね」
私も返事をします。
当たり障りのない返しでもあり、ある意味では本音でもあります。
保育園に入れば、集団生活が身につきます。親がマンツーマンで遊ぶよりももっと幅広くてダイナミックな遊びができます。栄養バランスの取れた食事を残さずピカピカに食べてきます。家では嫌がるハミガキもきちんとやります。季節の行事は園のみんなで賑やかに楽しめます。話の通じないワガママに24時間対峙し続けるイライラや徒労感なく、限られた親子の時間を大事にしようと思えます。母親も、社会から取り残されたような焦りを感じる必要なく、自己実現を目指せます。
私にとって、子どもを保育園に入れることはまちがいなく、専業主婦よりも良い選択だったと確信しています。
それでももちろん、偶然電車で隣り合わせたおばあちゃん相手にそんな事は言いません。
そして、かわいそうだという思いが全くないわけでもないのです。
だから私はただ、あなたの言うとおりだというように、残念そうな表情と口調で言います。
「本当にね、かわいそうですよね…。できれば一緒にいてあげたいんですけどね」
「ねえ、こんなに小さいんだものね…」
女性は誰でも少々おせっかいで、自分の意見を押し付けてきたりすることもあります。
でも一方で女性は、相手の心情に寄り添ってあげられる、心の優しさを持ってもいます。
「でもまだこれだけ小さいと、寂しいっていうのも分からないわね」
「そうですね」
「それよりもあなたの方が大変よね。子ども二人もいて、お仕事もして」
「いえいえ」
「大変よお。ねぇ本当にえらいわね。体壊さないようにしなきゃ、赤ちゃんはこんなに太ってるけどあなた細いから」
「いやそんなことないですよ(笑)」
「いや、あなたは体が弱いタイプよ」
「確かにそうですね」
「ほらね、見ればわかるのよ。本当に気をつけてね」
「はい、気をつけます」
しばしの沈黙になり、おばあちゃんは黙ってベビーカーを覗き込みました。アズキは相変わらずスヤスヤ寝ています。
「でもね。保育園に行くのも子どもにはいいのよね」
「保育園は可哀想」に対して私は最初反論しなかったけれど、優しい女性はちゃんと、相手の立場に立ってくれるものでもあります。
「そうですね。たくさんお友達もできるし、ご飯もしっかり食べさせてくれますし」
すかさず、保育園の利点を口早に伝えます。
「そうよね。保育園もいいものよね」
「はい。上の子も今は保育園大好きで、助かってます」
こうして一期一会の会話は終わりました。
思うに、若い母親たちはもっと、おせっかいなおばあちゃん達に対して、柳に風で接した方がいいのかもしれません。
話しかけられたら気軽に会話を交わして、批判的な事を言われてもそうですよねぇと適度にかわして。
姑相手にはそうもいかないこともあるだろうけれど、所詮ゆきずりの他人。
相手はこちらの事情を知らないし、私も相手の事情を知らない。
的を得たアドバイスになるわけがないし、それに対していちいち腹を立てるのも意味がない。
でも、そんな会話の「中身」ではなく、会話をすること、関わることそのものにフォーカスすれば、もっと気兼ねなく会話ができて、人との交わりそのものを楽しめるのかなと思います。
「小さな赤ちゃんを見るとつい話しかけたくなっちゃって」
と言うおばあちゃんに、少し気になって聞いてみました。
「お子さんはいらっしゃるんですか?」
「ううん、いないの」
それ以上の答えはなく、おばあちゃんは黙ってアズキを見つめていました。